50周年記念誌
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「和・恕・忍」の考え方を貫く 昭和53年9月、悦造は広島への進出を発表し、瀬戸内リージョナルチェーンの構築に向けて動き出す。これら長期ビジョンをはじめ悦造の意思決定の根底には、座右の銘である「和・恕・忍」の考え方が貫かれていた。 「和」とは調和であり、バランス。経営そのものは「和」に徹する哲学である。「恕」は寛容の精神。他人に寛容であれば自分には厳しくなり、ゆとりと厳しさが備わる。「忍」は耐え忍ぶ心。どんなことにも対応するために忍耐力が必要である。さらに「和・恕・忍」を貫くことはヒューマニティー(人間性の尊重)にもつながると言う。悦造はこの言葉を自らの行動の規範とするとともに、社内報などを通じて事あるごとに従業員にも示した。 昭和57年10月のフジショッピングスクエア広島店の出店は、この「和・恕・忍」の経営哲学の集大成と言っても過言ではない。出店に反対する地元の人たちとの粘り強い交渉は、和を保ちながら、寛容な心を持ち、予定を大幅に遅れるオープンを耐え忍びながら進められた。その結果、「瀬戸内リージョナルチェーン構想」の中核施設が完成したのである。絵画や書など、 芸術に親しむロマンチスト 念願の広島進出を果たしたフジは、1、000億円企業を目指すため昭和58年5月に新体制に移行し、悦造は代表取締役会長に就任する。昭和63年には会長職を退任し、名誉顧問に就任。プライベートな時間が持てるようになると、好きな本を読み、趣味の書に打ち込んだ。知人や従業員から揮毫を頼まれることも多く、色紙には「和・恕・忍」や「真・善・美」などの言葉を書いた。70歳、71歳、80歳のときにはチャリティー書展を開催し、多くの来場者を集める。また時間の許す限り美術館や画廊を巡るなど、芸術に親しむロマンチストでもあった。 平成元年、悦造が追い求めた理想のショッピングセンター、フジグラン松山がオープンする。開店披露会に出席した悦造は、店内を一通り見た後、喜びに満ちた表情で経営幹部の労をねぎらった。 平成9年、創業30周年を迎えたフジの店舗数は52店となり、創業時に目標としていた「八十八店」に近づきつつあった。その年の4月に開催された創業30周年記念式典の会場には、満面の笑みを浮かべながら来賓の人たちと談笑する悦造の姿があったが、翌平成10年9月21日、悦造は家族に看取られ87年の人生に幕を閉じた。※揮毫…毛筆で文字や絵をかくことフジショッピングスクエア広島店のレセプションにて(昭和57年10月13日)愛用の書道具座右の銘「和・恕・忍」悦造筆フジ創業30周年記念式典にて(平成9年4月22日)※ きごうじょ第一章軌跡History
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